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2025 Dec 09

ON FIELD | トランスフォームスポーツとは何か? ― 新しいスポーツの形を紐解く/小倉摩椰

 

全てのスポーツを産業へと進化させる

スポーツは、競技という枠を超え、社会や経済に豊かな影響をもたらす存在です。アスリートが競技に情熱を注ぎ、ファンがその瞬間を楽しむだけでなく、スタッフ、スポンサー、メディア、さらには地域社会までもがスポーツを通じて深くつながっています。しかし、こうした可能性を持ちながらも、スポーツが産業として十分に成熟していない領域が多く存在するのも事実です。
私たちSKYLIGHT Sportsは、スポーツに関わるすべての人々に光を当て、競技面と事業面の双方で強くなる基盤を築くことを目指しています。そのために、アスリート、ファン、スポンサー、メディア、コミュニティなど、多様なステークホルダーを結びつけ、スポーツが持続可能で発展的な新しいステージへ進化できるよう取り組んでいます。
「全てのスポーツを産業へと進化させる」——これがSKYLIGHT Sportsのパーパスです。スポーツを単なる娯楽や競技としてではなく、持続可能な産業として成り立たせるための仕組みを構築すること。それが私たちの使命であり、目指すべき未来です。

スポーツの産業化は、近年多角的に広がりを見せています。SKYLIGHT Sportsがお送りする本連載『ON FIELD』では、世界各地の現在のスポーツの潮流をとらえ、テーマごとに具体的な動きをご紹介し、新しい視点の一助となる内容をお届けします。
今回は新しい形のスポーツである「トランスフォームスポーツ」について、前後編の2回にわたって掘り下げていきます。

 

トランスフォームスポーツとは?

従来のスポーツには、いくつかの課題があると考えられています。例えば、試合時間が長いために視聴者を広げることが難しいことや、広い競技スペースが必要なため、プレーヤー層を拡大しづらいことなどです。また、若年層やライト層の中には、長時間の拘束や応援文化に心理的な負担を感じる人もいるでしょう。こうした課題は、スポーツのルールなどを部分的に変更するだけでは解決が難しい場合があります。

昨今、時代の変化や技術の進化、そして社会的ニーズの多様化により、新しい形のスポーツが世界では生まれています。それらは、当該スポーツが本来持つ魅力を活かしつつ、現代の社会に適応する形へと進化したものです。
SKYLIGHT Sportsでは、この新しい形のスポーツを「トランスフォームスポーツ」と定義します。

トランスフォームスポーツは、従来のスポーツを土台にしながら、現代のニーズに応じて進化をしているのが大きな特徴であり、スポーツの種類や目的に応じて以下の要素が含まれることがあります。

  • ルールの再設計:柔軟で魅力的な仕組みやルールへの見直し
  • 参加者の関わり方の更新:観る人、プレーする人、支える人が新しい形で関わる仕組みづくり
  • 体験設計の向上:楽しみ方や没入感を高める新しい体験の提供
  • デジタル技術の活用:試合運営や観戦体験の改善にデジタル技術を取り入れること
  • ソーシャルメディアの活用:参加者や観戦者とのつながりを強め、広がりを生む仕組み

これらの要素は、スポーツの種類や背景ごとに異なる形で取り入れられています。その結果、観る人・参加する人・支える人が相互に作用し合う新しい価値が生まれています。より多くの人々がスポーツを楽しみ、応援を続けたくなるような環境が形成され、その仕組みが収益機会の拡大やスポーツそのものの持続的な発展にも繋がっていくと私たちは考えています。

トランスフォームスポーツとは、文字通り「形を変えた(Transformed)スポーツ(Sports)」です。私たちはそれらを、従来の枠組みを大切にしながらも、新たな価値を創出する新世代のスポーツと位置付けています。

今回は注目を集めるトランスフォームスポーツの中から、以下の3つの競技に焦点を当てご紹介します。

  1. 「3×3」― ストリートからオリンピックへ、進化するバスケットボール
  2. 「キングスリーグ」― Z世代を虜にする、ゲーム感覚の新時代サッカー
  3. 「トゥモローズ・ゴルフリーグ」― タイガーウッズ、松山英樹も集う、テクノロジー融合型ゴルフ

これらの競技は、それぞれ異なる背景や目的を持ちながらも、「スポーツの形を変える」という方向性で進化を遂げています。
では、実際にこれらの競技がどのように生まれ、どんな魅力を持っているのかを詳しく見ていきましょう。

 

3×3
ストリートからオリンピックへ、進化するバスケットボール


3×3とは

3×3(スリー・エックス・スリー)は、従来の5人制バスケットボールを簡略化し、少人数でよりスピード感あふれる試合を楽しめるスポーツです。
ハーフコートで行われ、試合時間が短いため、観る側もプレイする側も集中して楽しめるのが特徴です。東京2020オリンピックで正式種目として採用されたことで、世界的な注目を集めました。

魅力と特徴

  • 試合のスピード感:1試合10分間、または21点先取で試合が終了するため、従来の5人制バスケ(10分×4クォーターの計40分)よりも短時間で試合が進行する、テンポの速いプレイが魅力
  • シンプルなルール:ハーフコートでプレイし、少人数での競技形式により、初心者でも参加しやすい
  • エンターテインメント性:試合中は音楽が流れるなど、観客を飽きさせない工夫がされている

競技の派生や成り立ち

3×3は、アメリカの公園やバックヤードで、ストリートプレイヤーたちが自由にバスケットボールを楽しむ中で生まれました。ハーフコートしかない状況や、人数が足りないという制約を逆に活かし、独自のルールでプレイする文化が発展。これがやがて「3×3」として形を整え、公式競技へと進化しました。

2007年には、国際オリンピック委員会(IOC)がユースオリンピックの創設を承認。その際、国際バスケットボール連盟(FIBA)が提案した「3×3」が新種目として採用されました。同年、マカオで開催されたアジアインドアゲームズで試験導入され、2009年のアジアユースゲームズで国際デビュー、2010年のシンガポール大会では正式種目としてデビューし、東京2020オリンピックでの採用を機に急速に普及しました。

 

キングスリーグ
Z世代を虜にする、ゲーム感覚の新時代サッカー


キングスリーグとは

キングスリーグは、従来のサッカーを大胆にアレンジし、短時間で展開される試合とゲーム的要素を融合させた新感覚のスポーツです。視聴者の参加型要素や特殊カードの使用など、従来のスポーツにはない仕掛けが盛り込まれています。2022年の創設以来、世界中で急速に人気を拡大し、視聴者数は1億人を超えるムーブメントを巻き起こしています。

魅力、特徴

  • 特殊カードの使用:試合中に「一発逆転」のチャンスを与えるカードが使用可能で、観客は最後まで展開が読めない

  • 観客参加型の試合進行:SNSや配信プラットフォームで、観客や視聴者が事前投票により試合のルールやカードの使用条件を決定する仕組みがあり、観客の参加感が強い
  • 著名人の参戦:元プロ選手やインフルエンサーがチームオーナーや選手として参加し、話題性を生み出している。選手には、元サッカーブラジル代表のロナウジーニョや、元サッカー日本代表選手の柿谷曜一朗選手や深谷圭佑選手等が参戦した。

競技の派生や成り立ち

キングスリーグが誕生したのは2022年。元FCバルセロナの選手だったジェラール・ピケと、スペインの人気インフルエンサーであるイバイ・ラノスの「新しいスポーツ」を生み出す構想から創設されました。その着想の一部は、ピケが以前主催した「バルーンワールドカップ」にありました。この大会では風船を地面に落とさないように打ち合うというシンプルなルールがSNSで話題となり、そこから「すぐ理解できて楽しめるスポーツ」の可能性を追求するアイデアが生まれたのです。

その後、キングスリーグはサッカーの伝統的な形式を取り払い、短時間で楽しめるフォーマットを完成させました。初回の試合には92,000人が動員され、SNSとの親和性の高さから急速に人気が広がり、女子リーグ「クイーンズリーグ」の創設や、ワールドカップの開催など、今もなおグローバル展開は加速を続けています。

 

トゥモローズ・ゴルフリーグ
タイガーウッズ・松山英樹も集う、テクノロジー融合型ゴルフ

TGLとは

TGL(トゥモローズ・ゴルフリーグ)は、従来のゴルフにテクノロジーとエンターテインメント要素を融合させた革新的なスポーツです。
試合時間を短縮し、屋内施設を活用したコンパクトな会場でプレイすることで、従来のゴルフ観戦のハードルを大きく下げています。

魅力、特徴

  • デジタル技術の活用:シミュレーターを使用してリアルタイムでスコアを反映し、従来のゴルフよりもスピーディーに進行
  • 観客参加型の演出:試合中の演出やSNSとの連動により、観客を巻き込む仕掛けが豊富
  • 著名選手の参加:タイガー・ウッズやローリー・マキロイ、松山英樹など、トッププレーヤーが参戦し、競技の注目度を高めている

競技の派生や成り立ち

TGLが誕生した背景には、ゴルフ界における大きな変化があったと考えられます。
2021年にサウジアラビア政府系ファンドPIFの巨額な資金を背景に誕生したLIV Golfが、フィル・ミケルソン、ダスティン・ジョンソン、ブルックス・ケプカといった世界的な大物選手を次々と獲得し、男子プロゴルフ界に新たな流れを生み出したことが契機になったのではないかと考えられます。

従来のPGAツアーはファン層の拡大と新しい観戦体験の提供を迫られ、その流れを受けてタイガー・ウッズとローリー・マキロイが協力し、若年層や新規ファンをターゲットにした革新的な形式「TGL」を創設したのではないかと推測されます。

 

まとめ 

ご紹介した3×3、キングスリーグ、TGL以外にも、7人制ラグビーの「セブンズ」や5人制野球など、現代の若者の嗜好に応じたトランスフォームスポーツは、着実にその広がりを見せています。これらの競技は、プレー人数を減らすことで中規模の施設でも開催が可能となり、「都市型スポーツ」としてアクセス性の向上が図られました。特に都市部に集中する若者層にとって、より身近で気軽に参加・観戦できる環境が整備されている点が特徴です。

トランスフォームスポーツに共通しているのは、形を変えた新しいスポーツが、スポーツ業界の客層を大きく変化させているという点です。従来型のスポーツではリーチが難しかったZ世代を新たな観客層として取り込むことに成功し、特にキングスリーグでは観客の80〜95%が30歳以下のZ世代であるというデータが、その象徴的な例と言えるでしょう。
こうしたトランスフォームスポーツの台頭は、単なるルールやフォーマットの変化だけでなく、観客体験、エンターテインメント性、そしてデジタル時代のニーズに対応した変革がもたらした結果です。

次回は、トランスフォームスポーツが「なぜ収益化が可能なのか」「なぜ収益化が難しいのか」といった視点から、成功要因と課題を掘り下げていきます。

 

後編はこちらから
【後編】トランスフォームスポーツの収益化戦略 ― Z世代を掴む「熱狂の濃縮体験」とは?

 

 

参考リンク

3×3

 

キングスリーグ

 

TGL

 

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