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2024 Nov 19

AmazonがNBAの放映権を獲得した理由とは

2024年7月、米プロバスケットボールNBAは『The Walt Disney Company』とのパートナーシップ契約の更新と、『NBCUniversal(NBCU)』、『Amazon』との新規契約を発表しました。1)

3社は2025-2026シーズンから2035-2036シーズンまでのNBAの放映権を獲得し、11シーズンの契約金額は3社合計で760億ドル(約11兆円)にのぼります。2)
Sportcalによると、各社の年間契約金額は、Disneyが26億ドル(約3,800億円)、NBCUが25億ドル(約3,700億円)、そしてAmazonが18億ドル(約2,600億円)となります。3)

なぜ米国の巨大IT企業であるAmazonが巨額なNBA放映権の獲得に踏み切ったのか、
その理由を本コラムで考察していきます。

Amazonが抱える課題

 1. 広告事業の成長率下降

2024年1月、Amazonは、米国、英国、ドイツ、カナダにおいて、月間で2億人以上のユーザにリーチしているPrime Videoにストリーミング広告を導入しました。その結果、広告部門の売上は、2023年第2四半期(4月から6月)の約1兆5500億円から、2024年第2四半期(4月から6月)には約1兆8500億円に増加。前年同期と比べ20%成長し、Amazonの全事業の中で最も高い成長率を記録しました。
しかし、実際は、直近の2四半期連続で広告事業の成長率は下降しており、テコ入れが必要となっています。4)

 2. Prime会員の低いPrime Video利用率

2022年に行われたオンラインアンケートによるとPrime会員の約半数(45%)は、Prime Videoを全く使用しないという結果が出ています。5)
サブスクリプションサービスでは、「休眠会員」に再びサービスを活発に利用してもらうことが、ビジネスの安定と成長において重要です。そのため、定期的に視聴者を確保できるコンテンツを提供し、Prime会員の利用率を向上させる必要があります。

 3. 利用率が低いZ世代

2022年時点の米国のインターネットユーザーにおけるAmazon Prime利用の普及率を見ると、Z世代の割合が相対的に低い傾向にあります(ミレニアル世代が8割を超えているのに対して、Z世代は5ptほど低くなっています)。6)
Z世代は今後の消費市場の中心となる存在です。Z世代の利用率が低いことで、将来的にPrime会員数や利用率が伸び悩む可能性があるため、若年層を取り込めるコンテンツの提供が必要です。

以上が、Prime Videoにおいて、Amazonが抱える課題となりますが、NBAの放映権獲得によりそれらの課題がなぜ解決されるのか、放映権獲得により期待される効果について考察していきます。 

 

NBAの放映権獲得により期待される効果

 1. Prime Video利用者・広告収入の増加

現在、Prime Videoが持つコンテンツの中でも特に人気を集めている番組が、2017年より配信を開始し、2022年以降独占放送している「Thursday Night Football」です。
米国の調査会社ニールセンによると、2023年における同番組の総視聴者数は前年比24%増加しており7)、2024年9月26日のダラス・カウボーイズ対ニューヨーク・ジャイアンツ戦は平均1,622万人の視聴者を集め、Prime Videoにおいて最も視聴された試合となりました8)。米国内でNFLがPrime Videoの目玉コンテンツとなりつつあります。

しかし、SNSフォロワー数を見ると、NBAは、NFLより注目を集めていると考えられます。
米国プロスポーツリーグのフォロワー数を比較すると、NBAのSNSフォロワー数は米国の他の4大リーグ(NFL、NHL、MLB、MLS)を合わせた数より44%多く、NFLの2.5倍のフォロワーを保有しています。また、世界の主要リーグと比較しても、NBAは全SNSで合計2億1,020万人のフォロワーを擁しており、最も注目を集めるコンテンツとなっています。9)

そして、国際市場において、最も放映権料が高い米国プロスポーツリーグがNBAです。
米国外における米国男子プロスポーツリーグの放映権料を見ると、NFLが3億5100万ドル(約512億円)であるのに対し、NBAは7億1,500万ドル(約1,043億円)の価値があり、NBAの方がより高い価値があることが分かります。10)

 

SNSのフォロワー数や米国外の放映権料を考慮すると、NBAはNFL以上に多くの視聴者を集めるポテンシャルを持っています。AmazonがNBAの放映権を獲得することで、さらに多くのPrime会員を増やし、広告価値を向上させることが可能であると考えられます。

 2. Prime Video利用率の向上

スポーツコンテンツは、定期的に視聴者を確保できるため、アクティブ利用率を向上させることが可能です。
例えば、サイバーエージェントは「AbemaTV」でカタールワールドカップの全試合を放送しました。それにより、週間アクティブユーザー(WAU)は1,200万人から3,000万人まで増加しました。さらに、ワールドカップ終了後もWAUの減少幅は少なく、1,700万〜1,900万人の間で推移し、継続的なアクティブユーザーの獲得に成功しました。11)
ワールドカップと異なり、NBAは一時的なコンテンツではないため、「AbemaTV」以上に継続的な利用者獲得に繋がることが予想されます。

 3. Z世代の視聴者獲得

NBAのファンのうち13歳から34歳の年齢層が全体の約48%を占めています。
そのため、NBA放映権を獲得することにより、相対的に利用率の低い若年層へのアプローチが期待できます。12)

 4. 米国外での新規会員獲得

今回の契約における配信対象国はアメリカ以外の国も含まれています。配信対象国は、中国本土、ポーランド、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オランダを除く全世界に及び、カナダでの権利はNBAの2026-27シーズンから付与される予定となっています。

Prime Videoを通して各国にNBAを放送することにより、NBAの人気は高いが、プライム会員が少ない新興地域の会員獲得に繋がります。実際に、Amazonが発行しているAnnual Report(2023)で、注力する新興地域として挙げられているブラジルでは13)、2022/23シーズンから既にPrime VideoにてNBAの試合がライブ配信されています。同国はNBAファンが約4,500万人となっており14)、NBA放映権の獲得によってプライム会員の増加に繋がることが予想されます。

日本における今後の放映権がどうなるかについてはまだ不明ですが、B.LEAGUEのファン人口は2023年時点で829 万人で、前年+328 万人と大幅に増加しています15) 日本国内でもバスケットボールファンが増加している傾向から、今後Amazonが日本でのNBA放映権を獲得する可能性も考えられます。

まとめ

Prime VideoでNFLが人気を集めている実績と世界最大の注目度を誇るNBAのポテンシャルから、NBAの放映権を獲得することにより、Prime Videoの利用者・利用率増加を促し、更なる広告収入の増加を見込んでいると予想されます。本契約について、Prime Video・Amazon MGMスタジオ責任者のMike Hopkins氏は、「NBAとWNBAの試合の放映権獲得は、Prime Videoチームが過去6年間に築き上げてきた堅調なスポーツビジネスの新たな礎となるでしょう」16) と述べています。Prime Videoが誇るスポーツラインナップにNBAが加わることで、コンテンツを多様化させるだけでなく、スポーツ中継配信におけるリーダーとしての地位を確立していくと考えられます。

今後、AmazonとNBAがどのような動きをしていくのか、引き続き観察していきます。

参考

1) NBA Communications.NBA signs new 11-year media agreements with The Walt Disney Company, NBCUniversal and Amazon Prime Video through 2035-36 season”.2024-07,https://pr.nba.com/nba-walt-disney-company-nbcuniversal-amazon-prime-video-media-agreements/
2) 1ドル=146円で換算
3) Sportcal.”Deal Focus: NBA completes 11-year rights deals with Disney, NBCU, Amazon”.2024-07,https://www.sportcal.com/features/deal-focus-nba-completes-11-year-rights-deals-with-disney-nbcu-amazon/?cf-view&cf-closed
4) Amazon.”AMAZON.COM ANNOUNCES SECOND QUARTER RESULTS”.2024-08,https://s2.q4cdn.com/299287126/files/doc_financials/2024/q2/AMZN-Q2-2024-Earnings-Release.pdf
5) Statista.”Frequency of watching Amazon Prime Video in the past month in the United States in 2022, by gender”.2023-11,https://www.statista.com/statistics/1278161/tv-consumption-amazon-prime-video/
6) Statista.”Amazon Prime usage penetration among internet users in the United States as of October 2022, by age group”.2024-2,https://www.statista.com/statistics/304940/amazon-prime-us-age-distribution/
7) Amazon Ads.”Premium Live Sports content, no matter the season”.https://advertising.amazon.com/live-sports-on-prime,(参照 2024-10-08).
8) FOX Sportst.”Cowboys’ win over Giants draws 16.22 million viewers, an NFL streaming regular-season record”.2024-09,https://www.foxsports.com/articles/nfl/cowboys-win-over-giants-draws-1622-million-viewers-an-nfl-streaming-regularseason-record
9) RunRepeat.”NBA Popularity Stats”.2023-10,https://runrepeat.com/nba-popularity
10) SportsPro Media.”Why the NBA is America’s most globally relevant sports property”.Ampere Analysis.2023-10,https://www.sportspromedia.com/insights/analysis/nba-tv-rights-revenue-global-popularity-data-ampere-analysis/
11) CyberAgent.”1Q FY2023 Presentation Material”.2023-12,https://pdf.cyberagent.co.jp/C4751/fhjD/qdYS/uPih.pdf
12) SponsorPulse.”The SponsorPulse Guide to NBA Fan Demographics”.2023-4,https://www.sponsorpulse.com/insights/the-sponsorpulse-guide-to-nba-fan-demographics

13) Amazon.”Amazon Com Inc 2023 Annual Report”.2024-2,https://s2.q4cdn.com/299287126/files/doc_financials/2024/ar/Amazon-com-Inc-2023-Annual-Report.pdf

14) CSM Live.”BRAZIL SET TO WELCOME NBA’S LARGEST FAN DESTINATION”.2022-9,https://csmlive.com/news/brazil-set-to-welcome-nbas-largest-fan-destination/
15) 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社.”【速報】 2023 年スポーツマーケティング基礎調査”.2023-10,https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2023/10/news_release_231030_01.pdf
16) Amazon Ads.”Prime VideoとNBA、2025年から11年間にわたる画期的なグローバルメディア権利契約を発表”.2024-7,https://advertising.amazon.com/ja-jp/blog/prime-video-nba-2025-deal

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