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2024 Jun 04
欧州女子サッカーの現在地 -UEFA女子チャンピオンズリーグ決勝 レポート-
欧州女子サッカーの現在地
-UEFA女子チャンピオンズリーグ決勝 レポート-
2024年5月25日にスペインのビルバオでUEFA女子チャンピオンズリーグの決勝戦、FCバルセロナ・フェミニ対オリンピック・リヨン・フェミナンが行われました。UEFAは2019年に女子サッカーの5か年戦略を発表し、女子サッカーに投資を行ってきました。今年はちょうど5年目にあたります。ビジネスとしても大きな注目を集める欧州女子サッカーの現在地を肌で感じるため、UEFA女子チャンピオンズリーグの決勝戦を現地で観戦してきました。10のトピックを通じて、欧州での盛り上がり状況や、それを生み出している背景についてお伝えしていきたいと思います。
1.チケットは30分で完売
決勝戦までに段階的に販売された5万枚強のチケットは完売となりました。チケットは国際女性デーの3月8日に販売が開始されました。初回の販売は18,000枚で、これは30分で完売しました。その後決勝戦進出のチームが決まった後に当該チームのサポーター向けにチケットが販売されました。こちらも30分で完売しました。チケットの価格は15ユーロから45ユーロと男子に比べると低い価格ですが、これだけの需要があれば今後はさらに価格は上昇していくと思われます。
2.FCバルセロナラッピングの飛行機
バルセロナを拠点とするVueling航空は、2024年4月にFCバルセロナの女子チームの公式スポンサーになったことを発表しました。筆者は決勝戦の朝の便でバルセロナからビルバオに移動しましたが、期待はバルセロナの選手の写真がラッピングされた特別仕様でした。乗客の多くが決勝戦を観に行くバルセロナサポーターであったため、機体が見えた瞬間は歓声があがっていました。
3.街を挙げて決勝を盛り上げる開催地ビルバオ
ビルバオは空港でも街中でも、UEFA女子チャンピオンズリーグの決勝に関する装飾が多くなされていました。4万人がバルセロナから来たと言われ、そのほかもビルバオの地域外からの訪問だとすると、この1日で多くの観光客が訪れたことになります。街の中心部のホテルは1泊10万円を超えていて、普段の数倍の価格に高騰していました。また土曜日に決勝戦が行われたため、よく日曜日は主要な観光地で多くのバルセロナサポーターを観ました。観光としての経済効果は大きかったと考えられます。
4.女子のチャンピオンズリーグでは初の試みとなるファンゾーン
両サポーター向けに、試合前の時間を楽しむファンゾーンが設置されていました。これは男子の大きな大会だと一般的な取り組みですが、UEFA女子チャンピオンズリーグでは初の試みだそうです。スペイン国内の開催という事もあって、バルセロナは4万人を超えるサポーターが来ていたため、ファンゾーンもにぎわっていました。音楽も大音量で流れていてフェスのような雰囲気でした。フォトスポットは数か所あった程度で、スポンサー関係のブースはハイネケンを除いて確認できませんでした。この盛り上がりであれば、来年はこのスペースでのスポンサーシップアクティベーションなども、さらに活用できる余地があると思います。
リヨン側のファンゾーンは、リヨンサポーターの来場がバルセロナサポーターに対して比較的少なかったこともあり、公園内に常設する型ではなく、公園周辺をハイネケンのブラスバンド隊が盛り上げる形で運営されていました。
5.会場周辺のスポンサーシップアクティベーション
会場周辺にはペプシコやハイネケンなどいくつかのスポンサー企業のブースがありました。ユニークな取り組みとしては、ハイネケンがリサイクル意識の啓蒙も絡めたブースを出していました。ペットボトルや缶を入れると、ルーレットが回りキャップやタオル(いずれもリサイクルで作られた製品)がもらえるという体験ができるブースを出していました。多くの人がこのブースを訪れていました。
6.男子サッカーとは異なる観客層
観客は女性やファミリー層が多かったです。若い女性の8人組のグループなど、男子サッカーではあまり見かけない層が多かったことが印象に残っています。これはバルサのようなビッククラブが女子サッカーに投資をしている理由の1つであると思います。男子サッカーではリーチできない層にリーチでき、クラブの新規ファンとして若い女性やファミリー層を獲得できるのは女子サッカーチームを持つ一つのメリットであると言えます。
また、男子チームのユニフォームを着ている人だけではなく、女子チームのユニフォームを着ている人を多く見かけました。特に今のバルセロナを象徴するアレクシア選手の名前が入ったユニフォームを多く見かけました。これは女性や小さな女の子だけでなく、男性や男の子も多く見かけました。日本ではあまり見ない光景ですし、スペインでも5年前では考えられなかったことです。今では違和感なく街に溶け込んでいます。
7.決勝戦としては最多の観客動員数
この日は、UEFA女子チャンピオンズリーグ決勝戦の最多動員記録を更新する50,827人がスタジアムに来場しました。後半にこの数字と共に記録を更新したことが発表されたときには、スタンドから大きな歓声が上がりました。
8.放送クオリティの向上
UEFA女子チャンピオンズリーグの公式ブロードキャスティングバートナーはDAZNが2021年より務めており、DAZNやYoutubeでの無料配信を行ったことで、女子サッカーや同大会の認知が飛躍的に高まりました。
試合会場では各国のコメンテーターが試合前からピッチレベルでインタビューや試合の展望を解説していました。単に試合を放送するだけでなく、こうした付加価値を高める取り組みが行われていました。男子サッカーでは当たり前ですが、女子サッカーではこれまで実施されていませんでした。UEFAが2022年に発表したレポートでは、試合を観るためには解説や分析の充実が必要とされていましたが、この試合ではそれが充分に行われていて、その結果多くの視聴者がこの試合を観戦したことにつながったと言えます。
9.スタジアムの熱狂と女子サッカーならではの雰囲気
試合前のセレモニーは、ビッグトーナメントの決勝にふさわしい素晴らしいものでした。また試合自体も観客全体の80%以上の人が応援したFCバルセロナが勝利しスタジアムは大いに盛り上がりました。先制点のアイタナ選手、追加点のアレクシア選手共にバロンドール受賞者であり、決めるべき選手が決めたこともあって、スタジアムは大きな歓声に包まれていました。ブーイングもありますが男子に比べて少なく、純粋にスポーツを楽しむ、選手を応援するという、とても良い雰囲気だったことが印象的です。これは女子サッカーの良さ一つだと感じました。
10.社会の関心の高さ
翌日のスペイン国内の新聞はスポーツ紙だけでなく、一般紙もFCバルセロナ・フェミニのUEFA女子チャンピオンズリーグ優勝について取り上げていました。スペイン国内では、普段からテレビのニュース番組でも女子サッカーが取り上げられるなど、数年前に比べて格段に注目度が高まってきています。
※スペインの現地メディア記事
https://www.abc.es/deportes/futbol/barcelona-venga-olympique-lyon-levantar-tercera-champions-20240525200701-nt.html
https://elpais.com/deportes/futbol/2024-05-25/el-barcelona-acaba-con-la-tirania-del-lyon-e-impone-un-nuevo-reinado-en-europa.html
欧州ではこの5年ほど、UEFAやビッククラブによる女子サッカーへの投資が活発に行われており、その結果今のような盛り上がりを見せる状況になっています。女子サッカーの試合で数万人の観客を動員することは、今では珍しいことではなくなり、ニュースになりません。女子選手のシャツを男の子が来ていることも普通のことになりつつあります。UEFAは再来年からチャンピオンズリーグのフォーマットを変更することを発表しており、さらなる成長を目指しています。欧州の女子サッカー市場は今後さらに拡大していくと思われます。
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